「こんなものが売れるわけないやろ」

渡辺今回はヤシノミ洗剤50周年記念の一環として、インタビューを実施しています。

ヤシノミ洗剤が生まれて半世紀。今、皆さんはどんなことを感じますか?

齋藤「やっと、時代が、ヤシノミ洗剤に追いついてきた」と感じる機会が増えてきましたね。濱口さんもそう思いません?

濱口そうですね。我々が入社した頃って、「エコロジー」っていう言葉すら浸透してなかったですからねえ。

僕らの先輩方は、さらに苦労されてきたと聞いています。ほら、石油系の洗剤と比べて、植物性の洗剤ってどうしても高価になるじゃないですか。

それで、昔は、取引先の人に「こんなものが売れるわけないやろ」と呆れられたり、ひどいときには「そんなに自然にやさしいと謳うなら、君はそれを飲めるのか?」と言われたり......。そんな時代もあったそうです。


廣岡自分も「時代が追いついてきた」と感じます。あるいは、「時代に追いつかれてしまった」と言えるかもしれません。


廣岡「環境にやさしい」のがヤシノミ洗剤の特長でしたが、それはもう「当たり前」になりつつあります。この時点でヤシノミ洗剤の魅力がひとつ埋もれてしまうわけで......。これからヤシノミ洗剤を担っていく世代は、ほんとうに大変だと思います。

濱口CO2削減とか海洋プラスチック問題とか、課題は山積みだよね。でも、同席してくれている3人もそうですけど、若手や中堅の人たちは優秀だから......。きっと、上手に解決してくれると期待しています。


濱口若い世代の人たちってとても優秀でね。僕は学生さんの面接も担当しているけど、お話を聞いていて、いつも感服してますよ。

皆さん、普段の学業はもちろん、ボランティアとか海外留学とかを精力的にやられていてね。志望動機も非常に立派で。「自分は学生の時、こんなに真剣に考えたことってあったけ?」と感じますね(笑)

「言っていること、伝わったかな?」

平田濱口さんの話で思い出したんですけど、僕の面接をしてくださったのが、更家章太会長だったんですよ。あっ、当時はまだ社長でしたね。


渡辺​おお、それは緊張されましたね。

平田いや、それが、まさか創業者が面接に来られるとは思わなくて。「おじいちゃんが出てきたけど、どなたなんだろう」という感じでした。たぶん、偉い人なんだろうなと推測はしましたが。

一同(笑)


渡辺実に素敵なエピソードですね。会長とはどんな話をされたんですか?

平田それが、面接というより、一方的に話を聞いていた感じだったんですよ。サラヤの目指す方向性であったり、ものづくりに掛ける熱意であったり、そんな話をずっと......。

今になって思うと、その時点で「トップの本音」を直接聞けたのは、とても意味のあることだったと思います。

齋藤僕もそんな感じで、環境や社会問題についての話を3時間くらい聞かされました。ほとんど意味が分からなくて、ついには困り果ててしまって(笑)

それで、最後に会長が「言っていること、伝わったかな?」と尋ねてきまして。

渡辺なんとお答えになったんですか?

齋藤「あの、言わんとしていることは理解できました」と(笑)。そういう言葉しか出てこなかったです。

でも、平田さんも言ってましたけどね。これから社会人になるという時期に、「創業者の本音」を聞けたのは、大きな意味があったように感じますね。

濱口僕も最初の面接に会長がお見えになって......もう分かりますよね? 一時間くらい話を聞きっぱなしです(笑)


濱口自分は環境問題に関心を持っているほうでしたが、それでもほとんど意味が分からなかったですね。

渡辺なるほど。皆さんのエピソードを総合すると......。その時代の経営者としては、環境や社会問題に対する意識が、非常に高かったのでしょうか?

濱口そうですね。印刷会社で働いていた関係で、いろいろな企業の経営者と関わってきましたが......。会長は、もう一歩も二歩も先を見据えていましたね。

常に「本気」の人でした。

廣岡考えてみると......。我々が、会長と接点を持っている、最後の世代になるんですね。


肥田一度はお目にかかりたかったです。ただ、皆さんがよく会長の話をされるからだと思いますが、なんだか側にいらっしゃるような感覚がありますね。

渡辺――不躾かもしれませんが質問させてください。会長は、どんなお方だったのでしょうか?

平田自然環境や社会問題に対して、常に「本気」で取り組んでいる人でしたね。

本気じゃないと、高品質であることを示すために洗剤を透明にするとか、ボトルのデザインをステンドグラス調にするとか、そういう「ぶっ飛んだ」発想は生まれないですよ。


平田ヤシノミ洗剤は、ある意味で、そういう諸問題を解決するための「手段」だったのかもしれません。

齋藤デザインにも大変こだわる方でしたねえ......。「この線を0.5mm細くして」とか、「このマークをちょっと上に動かして」とか、会長自ら指示を出されてました。

サラヤは品質だけではなく、デザインにもこだわる会社ですけど、その「気風」は明らかに、会長から受け継がれたものだと思いますね。

濱口デザインの修正は大変やったね(笑)。そうそう。新商品が発売された時には、会長自らが地方の営業所や得意先に出向かれて、商品の説明をされることもありましたよ。

廣岡こう振り返ると、会長の、ヤシノミ洗剤に対する熱意は、並々ならぬものがありましたね。誇張抜きに、人生をヤシノミ洗剤に捧げられてました。

渡辺その行動力の源は、いったいなんだったのでしょうか?

廣岡それはやはり、「世界の『衛生・環境・健康』に貢献したい」という理念によるものだと思います。綺麗事ではなく......。会長は、常に本気で、そのために行動されていました。


どのブランドにも負けない魅力がある。

渡辺皆さん、今日はありがとうございました。最後に、ヤシノミ洗剤の「これから」を担っていく世代の皆さんに、メッセージをお願いします。

濱口プラスチック削減を筆頭に、課題や問題が山積みですよね。でも、やる前から「こんなんできへんわ」と諦めるのではなく、なにができるかを考えてみてほしいです。

齋藤創業者の思いであるとか、会社の歴史であるとか、そういうものを大切にしつつ、ものづくりに取り組んでほしいですね。


齋藤でもね、保守的になりすぎるのもよろしくない。バランスを取りつつ、どんどんチャレンジしてほしいです。

廣岡ヤシノミ洗剤とは、創業者をはじめ、多くの人々の思いとともに、成長してきたブランドです。

さっき、「 『環境にやさしい』という魅力が埋もれてしまった」と言いましたよね。でも、ヤシノミ洗剤には、ほかのブランドにも負けない強みがあります。それは歴史と信頼です。

環境にやさしい洗剤を、50年もの長い間、ずっとつくり続けてきたこと。そして、その歴史を通して、お客様と培ってきた信頼。それこそがヤシノミ洗剤の最大の魅力なのではないかと、僕は考えています。


廣岡懸念しているのが、そういう歴史や積み重ねが、忘れ去られてしまうことです。これまでずっと守ってきた「変わらないもの」が、変わってしまうことを、僕たちは恐れています。

言うまでもなく、時代に合わせて変化していく必要はあります。だけど、芯となるものは、土台となるものは、守り続けてほしいです。

――違う捉え方をすると、ヤシノミ洗剤の「課題」は、それだけかもしれませんね。守るべきところと、そうでないところの見極めさえ間違わなければ、きっと大丈夫だと思います。

歴史の大切さに気づく瞬間。

平田調査や検証を十分に行うのが前提となりますが......。「今風の感性」を大切に、伸び伸びとやってほしいですね。

正直なところ、僕自身、若い頃は周囲の意見をあまり聞かないタイプだったんですよ(笑)。この歳になってやっと、歴史の大切さが分かるようになったくらいで。

一同(笑)


平田逆に言えば、歴史の大切さに気づく瞬間は、いつか必ず訪れます。だから、環境にやさしい洗剤を真摯につくり続けてきた歴史を、大事にしてほしいですね。

――歴史って、それ自体は、「出来事の断片」に過ぎません。大事なのは、その歴史の「文脈」を理解することです。

たとえば、「1952年、サラヤ創業」とか、「1971年、ヤシノミ洗剤誕生」とか、それ自体は単なる情報ですよね。

でも、「終戦後、急激に悪化した公衆衛生を改善するために、サラヤを創業した」とか、「水質汚濁問題を解決するために、ヤシノミ洗剤を開発した」とか......。そういう文脈を学ぶことで、歴史には意味が生まれるのではないかと、個人的には考えています。

もし、「なにをするべきで、なにをするべきではないか?」と迷ったときは、「なぜヤシノミ洗剤が生まれたのか?」といった具合に、歴史を振り返ってみるといいのではないでしょうか。

また一歩先を目指そう。

渡辺平田さん、含蓄のあるお話をありがとうございます。

歴史に繋がることで、インタビュー前にヤシノミ洗剤について調べているとき、(ヤシノミ洗剤は)もともとは業務用洗剤だったと知りました。それが給食センターで評判になり、その声に応じる形で、家庭用洗剤として発売されたと......。

そういう背景を理解すると、ヤシノミ洗剤への思いも変わってきますよね。おこがましいようですが、それが「文脈を知ること」なのかもしれませんね。

――改めまして、今日はほんとうにありがとうございました。ヤシノミ洗剤の「原点」や「哲学」に触れることができ、非常に嬉しく思います。

ご同席いただいた若手チームの皆さん。もしよければ感想などをお聞かせいただきますか?

鳥越はじめて知ることが多くて勉強になりました。あと、純粋に、先輩方のお話を聞けて嬉しかったです。


鳥越「ヤシノミ洗剤が、100年続くブランドになるために、なにができるか」。これをテーマに据えて、しっかりと考えていきたいです。

神田歴史を知っているのと知らないのでは、ぜんぜん違うなと感じました。

これまで「守るべきところ」と「変えるべきところ」で迷うこともありましたが、今回のインタビューは、大きなヒントになりそうです。


肥田会社の歴史を「生の声」で学べてよかったです。世代に応じて手段を変える必要があるとは思いますが、ヤシノミ洗剤の変わらないものを、ぶれずに伝えていきたいです。


齋藤なんとなくですが......。「バトン」のようなものを手渡せたような気がしますね。

廣岡そうですね。――いろいろと言いましたが、新しい挑戦自体は大歓迎です。

「時代に追いつかれてしまった。だから、また一歩先を目指そう」。そういう気持ちでがんばってほしいです。

濱口ITインフラを整備するなど、すでに環境づくりには取り組んでいますが......。若い社員がもっと活躍できるよう、環境をさらに整えていかないとですね。

鳥越嬉しいです。濱口さん、よろしくお願いしますね。

一同(笑)


 

インタビューを終えて。

「どういう人たちが、どういう思いで、ヤシノミ洗剤をつくっているのだろう?」

こんな素朴な疑問からはじまったインタビューでしたが、とても実りのあるものになりました。ヤシノミ洗剤を育ててきた方たちの原点や哲学に触れることで、ブランドへの愛着が強まったように感じます。

特に興味深かったのは、「ヤシノミ洗剤が、課題解決を繰り返しながら成長してきたブランドである」と知れたことです。

ヤシノミ洗剤は、「手肌の荒れ」という個人的な悩みから、「水質汚濁」や「プラスチックごみの増加」といった社会問題まで、様々なアイデアで解決してきました。


その気風は、新しい世代にも受け継がれているようです。たとえば2021年には、「食器を洗う『前』に使用する」という、新発想のキッチンハンドクリームを発売。

また、ヤシノミブランドではありませんが、「商品ラベルをはがすとシンプルなボトルに変身する手指消毒スプレー」など、課題を解決するためのアイテムを次々と開発しています。

次はいったいどんなアイデアを見せてくれるのか。日用品愛好家としては楽しみで仕方ありません。

さて次回は、ヤシノミ洗剤の中核を担う中堅チームの皆さんにお話を伺っていきます。どうぞお楽しみに。


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